国際司法裁判所(こくさいしほうさいばんしょ)
国際司法裁判所(こくさいしほうさいばんしょ、英:International Court of Justice、仏:Cour internationale de Justice)とは、国際連合の主要な常設の国際司法機関のことで、オランダのハーグに本部を置く。 その役割は、国家間の法律的紛争、即ち国際紛争を裁判によって解決、または、法律的問題に意見を与えることである。国際法における権威であり、その法律的意見は、国際法に多大な影響を与える。英語での略称は、ICJ。
国際法一般を扱う常設司法裁判所という点で、常設仲裁裁判所や国際海洋法裁判所、国際刑事裁判所(ICC、2003年3月発足)などとは区別され、異なる意義を有する。
■目次
1 概要
1.1 国際裁判
1.1.1 裁判の開始から終了まで
1.1.2 裁判の準則
1.2 勧告的意見
2 機構
3 問題点
3.1 裁判開始の問題
3.2 判決が出た後の履行の問題
4 裁判官
4.1 過去の日本人裁判官
4.2 現在の裁判官
■概要
1946年、国際司法裁判所規程(1945年発効)に基づいて国際連合の主要な司法機関として(規程1条)設立された。裁判所は、原則として常に開廷されることが宣言されており(規程23条)、常設性が明言されている。
当事者となりうるのは国家のみである(規程34条)。個人や法人は、いかに強力であっても当事者とはなりえない。国際司法裁判所規程は、国際連合憲章とは不可分の一体であるために国際連合加盟国は当然ながら当事国である。国際連合非加盟国も、安全保障理事会の勧告のもとに国際連合総会でなされる決議によって当事国となることができる。
・日本は、国際連合に加盟した1956年(昭和31年)より前の1954年(昭和29年)より当事国となっている。
国際司法裁判所は、当事者たる国家により付託された国家間の紛争について裁判を行って判決・命令をする権限を持つ。一審制で上訴は許されない。判決を覆す効果があるのは、再審による場合のみである。なお、判決の意義・範囲に争いがある場合にのみ当事国は解釈を求めることができる。また、国連総会および特定の国連付属機関が法的意見を求めた場合には勧告的意見(かんこくてきいけん)を出すことができる。
国際裁判
裁判の開始から終了まで
裁判の開始
国際司法裁判所における裁判は、原則として両当事国の同意による付託によってのみ開始される。国内裁判と異なり、選択条項受諾宣言を行わない限り、原告となる国家が一方的に訴えても裁判所には管轄が無く、裁判は始まりもしない。これは、国家間には国民に対する国家のような統一された権力機構が存在せず、各国は平等の主権を有する以上、裁判を開始するためには当事国となる国家すべてが同意しなければならないためである。
ただし、選択条項受諾宣言(規程36条2項)をすることで、裁判への応訴を義務とすることができる。宣言をしている国家は、相手国がその国を訴えた場合には国内裁判のように応訴せねばならない(もっとも、宣言は予めの同意と捉えれば、同意が必要な原則に変わりはない)。
また、自国の権利が回復不能の損害に陥る切迫かつ重大な危機に存している場合、一方の当事国は、仮保全措置(provisional measure; la mesure conservatoire)の申請をICJに求めることができる。ICJは、この場合、「一見して」(prima facie)管轄権があるとみなす場合には、当該権利を保全するための仮保全措置の命令を下すことができる。確立した判例によれば、裁判所が出す仮保全措置命令は、たとえ裁判所の管轄権が明確に認定される前であっても、当事国を法的に拘束する(2001年の「ラグラン事件」(本案)判決、他)。
裁判の審理
裁判は、管轄に関する事項と本案に分かれる。前者は、付託された紛争に裁判所の管轄権があるか、つまりはその紛争をそもそも裁判所が裁きうるか、という点についての審理である。この管轄権には当事者適格などの事項も含まれ(「受理可能性」(admissibility)の問題)、これを欠く場合には日本の裁判でいう訴訟判決に相当する判決がなされる。管轄権については相手国側から先決的抗弁が提出されることがあり、提出された場合には本案審理の前にこちらを判断しなければならない。
そして、後者は前者の前提条件が充たされた後になされる、紛争にたいして国際法を適用して解決に導くための審理であり、これに対しては日本の裁判で言う本案判決に相当する判決がなされる。ただし、管轄権や受理可能性の問題は、しばしば、本案に連結されて(jonction)判断が行われることがある(例えば、1986年の「ニカラグアに対する軍事・準軍事的行動事件」(本案)判決)。
裁判の終了
裁判が、裁判所に係属した後は判決や命令が出された場合において当事国を法的に拘束する。この場合、当事国のみを特定の事件においてのみ拘束する。そのため、第三国を拘束しない。ただし、その解釈は法的に高い権威を持って受け止められ、国際法の解釈に大きな影響を与え、ときとして、「確立された判例」という形で、裁判所自身によって援用されている。
判決の履行については、統一された権力機構がないために国内における強制執行のような直接判決を執行する機関は一般的にはないといえる。しかし、それは制度によって異なり、例えば、WTOの上級委員会の決定は、紛争解決機関(DSB)による執行がなされる。ICJについては、国連の一機関であるから、判決の履行は、国連安全保障理事会の勧告あるいは決定に訴えることができる(国連憲章94条)。
裁判の開始・判決後の履行については、このようなシステムを取らざるを得ないことから実効性に問題がある。「問題点」の節を参照。
裁判の準則
国際司法裁判所規程38条1項は、「裁判所は、付託される紛争を国際法に従って裁判することを任務とし、次のものを適用する」と規定する。すなわち、ICJが紛争の平和的解決のために適用するのは、国際法である。
そして、適用されるものとして、以下が列挙されている。
・a 一般又は特別の国際条約で係争国が明らかに認めた規則を確立しているもの
・b 法として認められた一般慣行の証拠としての国際慣習
・c 文明国が認めた法の一般原則
・d 法則決定の補助手段としての裁判上の判決及び諸国の最も優秀な国際法学者の学説
すなわち、条約、慣習法、法の一般原則に基づき裁判がなされ、そしてそれらを明らかにするために判例・学説が援用される。
また、同条第2項では、当事国の合意がある場合には、「衡平と善」に基づき裁判することができる、と規定する。この場合の「衡平と善」とは、「法に反する衡平」(Equity contra legem)のことである。英米法のエクィティと同じものと考えて良い。
勧告的意見
勧告的意見は、国連総会および特定の国連付属機関が法律的問題に対する解釈の意見を求めた場合に裁判所が示す法律的解釈である。判決は日本の国内裁判所もなす権限であるのに対して、勧告的意見は日本の国内裁判所にはない権限である。
法律的問題を直接に解決するものではないため、勧告的意見によって示された解釈が直接に国際法となり法的な拘束力を有して国家を拘束するわけではないが、国際的に権威のあるものとして受け止められる。これが履行されて慣習国際法の要件を満たした場合には、慣習国際法としての法的拘束力を有する可能性もある。また、国際連合および付属機関においては行動の指針となる。
■機構
オランダのハーグに本部を置く。本部はオランダ政府より提供された宮殿を使用しており、その宮殿は「平和宮(Vredespareis)」と呼ばれている。
裁判官は、国籍の違う9年任期の裁判官15人で構成される(規程3条)。徳望が高く、かつ各国で最高の裁判官に任ぜられるのに必要な資格を有する者、もしくは、国際法に有能で名のある法律家の中から、各国が候補者を指名して選挙によって選ばれる(規程2条)。選挙は、候補者の名簿から安全保障理事会および総会でそれぞれ別個に選挙して行う。裁判官には双方で絶対多数を得た者が選ばれる。(規程8条ほか)
裁判官は、裁判所の事務に従事する間は外交官としての特権免除が認められる。(外交関係に関するウィーン条約参照)
■問題点
裁判開始の問題
武力紛争を防止することが期待されているが、開廷には当事国双方の同意が必要なこともあり、なかなか付託に結びつかない例も少なくないのも現実である。日本でも韓国との竹島領土問題において、日本側の提案に対し、韓国側が拒否しているために開廷には至っていない(一方で日本は、仮保全措置の申請をICJに求めていない)。
選択条項受諾宣言も、平和のために宣言がなされることが望ましいとされるものの、その負担から宣言をする国は少ない。国際連合加盟国の約3割に留まっている。特に、安全保障理事会常任理事国においては、イギリスのみしか宣言を行っていない(アメリカは当初宣言をしていた。しかし、ニカラグア事件の敗訴により撤回した)。その上、宣言をする国においても、時間的・事件的な留保が多く、特に、直ちに撤回できると宣言する国が多い。
* ただし、出訴された後に撤回しても訴訟が係属している以上は判決の効力が及ぶ。この場合は、欠席裁判により欠席側に不利になるが、敗訴しても履行を任意にすることは期待できない。これについては、次の節を参照。
判決が出た後の履行の問題
もっとも判決に従わない当事国に対しては、一方の当事国が安全保障理事会に提訴することができる。その場合には、安全保障理事会が勧告・その他をとるべき措置を決定することができる(国際連合憲章94条2項)。これが、強制力を担保する唯一の手段である。
国内裁判所においては、国家が強制執行するなど、国家権力によって履行を直接強制する手段がある。しかし、統一された権力機構がないために直接に履行を強制する執行機関がない。したがって、執行力を持たないのが国際司法裁判所の判決であり、判決は尊重されてよく履行されてはいるものの、しばしば、判決が無視される事態が発生して裁判所の権威を傷つけている(ニカラグア事件のアメリカ、イランアメリカ大使館人質事件のイランなど)。
特に、拒否権を行使することができる常任理事国や常任理事国の密接な同盟国に対しては安全保障理事会の勧告すらなされないので、実質的に判決の強制力はないといえる。
現状においては、各国が裁判所の権威と意見を尊重して理性的に自ら履行することが望まれる。
■裁判官
過去の日本人裁判官
・田中耕太郎
・小田滋
現在の裁判官
・小和田恆(Hisashi Owada、日本、所長)
・ペーテル・トムカ(Peter Tomka、スロバキア、副所長)
・史久鏞(Shi Jiuyong、中華人民共和国)
・アブドゥル・G・コロマ(Abdul G. Koroma、シエラレオネ)
・アウン・シャウカット・アル=ハサウネ(Awn Shawkat Al-Khasawneh、ヨルダン)
・トーマス・バーゲンソール(Thomas Buergenthal、アメリカ合衆国)
・ブルーノ・シンマ(Bruno Simma、ドイツ)
・ロニー・アブラハム(Ronny Abraham、フランス)
・ケニス・キース(Kenneth Keith、ニュージーランド)
・ベルナルド・セプルベダ・アモール(Bernardo Sepúlveda-Amor、メキシコ)
・モハメッド・ベヌーナ(Mohamed Bennouna、モロッコ)
・レオニド・スコトニコフ(Leonid Skotnikov、ロシア連邦)
・アントニオ・アウグスト・カンサード・トリンダージ(Antônio Augusto Cançado Trindade、ブラジル)
・アブドゥルカウィ・アハメド・ユスフ(Abdulqawi Ahmed Yusuf、ソマリア)
・クリストファー・グリーンウッド(Christopher Greenwood、イギリス)
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